23 空間の守護者

Mission23 空間の守護者


 そこは、塔の頂上だった。
辺りには夜の闇が広がっている。
ルナ達4匹の前には、巨大なポケモンが立っている。
その名はパルキア。空間の神と呼ばれるポケモンだ。
一行は、突如現れたパルキアの空間転移に巻き込まれ
この塔に移動してきたのだ――

 パルキアが1歩踏み出す。
「ここは空の裂け目!オレの住処だ!」
その言葉に、一行は驚いた。
まさか空の裂け目に連れていかれたとは。
パルキアが、さらに1歩進み出る。
「勝手に空間をゆがめるお前には、消えてもらうっ!!
 ついでに仲間どももだ!!」
巨大な右腕についた真珠の結晶に、光が集まる。

グオオオオオオオォォォォォォッ!!!!

すさまじい咆哮とともに、右腕を上から振り下ろすと
計り知れない威力の衝撃波が発生した。
まさに、空間を切り裂くような攻撃。
「うわあっ!」
激しい風圧に跳ね飛ばされ、4匹は塔の頂上から落下していく。
「クッ、下に落ちたか!」
パルキアは苦々しく言った。
「しかし、逃がしはせん!!」
瞬間、パルキアは忽然と姿を消した――

 頂上から落下した一行は、途中の外壁からせり出した足場に着地した。
衝撃はあったが、大事には至らず。
「さて、どうしたもんかな?」
見ると、塔の中に入る出入り口が1つ。
「入ってみようよ。動かなきゃなんにもならないよ」
「ええ。下に降りてみましょう。塔から脱出できるかもしれないわ」
4匹は、空の裂け目と呼ばれる塔に入っていく。

 その内部を見て、一行はまたも言葉を失った。
足場がところどころ欠けているのだ。
「空の裂け目っていうけど、地面が裂けてるよ」
「足元ニ注意シヨウ」
「こういう時にイオンはいいよな、空を飛べて」
その時、前方から2匹のポケモンが近づいてくる。
リザードンとジバコイルだ。
瞬間、いきなりリザードンが炎を吐き出す!
「なにっ!?」
4匹はとっさに回避する。炎は壁に当たり消えてゆく。
ジバコイルが、ゆっくりと接近してきている。
「どうやら、やるつもりらしいな」
「オソラク、パルキアノ命令ダロウ」
「確かにそれは考えられるわね」
グレアがふといホネを投げつける。標的はジバコイル。
だが、ジバコイルはふっと高度を上げた。
骨は命中しない。
「んなっ!?いきなり飛んだぞ!?」
「でんじふゆうノ技ダ」
ジバコイルの進化前であるイオンが分析する。
周囲に磁力を放つことで、高く浮かび上がることを可能にできる技である。
磁力は周囲に広がったはずだが、リザードンはもともと飛べるので効果がないようだ。
ジバコイルが稲妻を放つ。
リザードンを見事に避け、ルナ達の周囲に雷が降り注ぐ。
「そうは行くか!」
グレアが骨を掲げる。ひらいしんの特性で、稲妻は吸収された。
反撃に出るべく、相手に接近していく。
だが。
「!!?」
1歩踏み出した途端、床が沈み……そして抜けた。
「どわあああーっ!!?」
起こった事態を把握できないまま、グレアはその穴から落下した。
誰が仕掛けたのか、落とし穴があったのだ。
しかも。
「なんだってんだよ……」
着地点には、野生のポケモンが大勢いた。
サンダースにエレキブル、スリーパーやエルレイドなど。
皆、敵意をむき出しにしている。
「ちっ、ふざけたマネを」
先頭にいたエルレイドが飛びかかる!
だが、上から仲間達が降りてきた。
ロットの攻撃がエルレイドを打ちのめす。
「グレア、大丈夫?」
「ああ、だが目の前がただごとじゃないぜ」
ルナに素早く言葉を返す。
落とし穴で落ちた先はモンスターハウス。
外敵を想定して仕掛けられたのだろう。
天井の穴から、先ほどのリザードンとジバコイルも現れた。
空中を飛べる彼らには、穴から降りることなど造作もない。
「みんな、やるよ!」

 グレアとロットが相手に接近し、ルナとイオンは後方から狙い撃つ。
リザードンの急所にラスターカノンが命中する。
ロットがエレキブルに連続で攻撃を仕掛ける。
その背後を取ろうとしたエルレイドを、グレアが仕留める。
スリーパーがロットの目の前に出て、振り子を揺らす。
強烈な眠気が襲ってきた。
だがルナが寄ってきて1発でたたき起こし、さらにどろばくだんを撃ち込む。
スリーパーの顔で泥が弾けた。
続けざまにロットが攻撃を命中させ、スリーパーを倒す。
グレアとイオンが、目の前の敵を仕留める。

 しかし、敵の数は一向に減らない。
絶えず集まってきている。
「これじゃキリがないよ」
「ならば逃げるか?」
グレアがそう言った次の瞬間、
ルナ、イオン、ロットの3匹が一点に攻撃を集中する。
ちょうどそこにいたサンダースが、地面に転がっている。
「よし、あそこだ!」
「逃げよう!」
4匹が一斉に駆け出し、囲みを破って逃げる。
だが、やはり後ろから大量のポケモン達が追いかけてきた。
「ルナ、あれやってみよう!」
ルナとロットは逃げる足を止め、素早く振り返る。
「せーの!」
「ブリザード!!」
そして、ルナはれいとうビームを、ロットはしんくうぎりを放つ!
敵の集団に向けて放たれたれいとうビームが、強風により拡散される。
激しい吹雪となって、ポケモンの大群に襲いかかった。
大群は足を止めたようだった。
4匹はこの機を逃さず、一気に距離を離す。

 しばらく走り続けた後。
「逃げきったみたいね」
「ああ、あの大群はちょっと相手にできなかったな」
イオンが無言のまま、ルナの隣を通り過ぎる。
その時、床から無数の針が飛び出した!
「えっ!?」
隣にいるルナは、飛びあがって驚いた。
しかし、当のイオンは平然としている。
表情1つ変えていない。
飛びだした針の先は、ものの見事に折れたり曲がったりしている。
「こりゃ、毒針だな。またトラップか」
針先の色から、グレアはそう判断した。
が、はがねタイプのイオンは毒など全く受け付けない。
針そのものも、メタルボディに阻まれその威力を発揮することはできなかった。
「ふうー……冷や汗かいたぁ……」
ルナは、安心して大きく息を出した。

次の瞬間、どこからともなく何かが走り去っていった。
目にも留まらぬスピードで、青い影が通り過ぎていく。
一行がそれに気づいた時には、すでに影は遠くへと過ぎていった後。
「な……なんだったの……?」
影の正体は、一行には知る由もなかった。

 さらにしばらく、塔を降りていく。
4匹の目の前に、大きな壁が立ちはだかっていた。
「行き止まり?」
「戻ッテミヨウ」
そうして後ろを振り返ると、一行の視界に信じられないものが入ってきた。

「な、なんだとっ!?」

またしても、目の前にパルキアが現れた。
「どうあがいたところで無意味だ!お前達は絶対にここから逃げられない!!」
威圧感を放ちながら、パルキアが距離を詰めていく。
「なぜなら、お前達は!」
両腕に光が集まって行く。
「このオレによって、消される運命だからだあっ!!!」

グオオオオオオオォォォォォォッ!!!!

またしても、空間を引き裂く真空波が飛んできた。
4匹は左右に散る。
いつものように、グレアとロットが接近し
ルナとイオンは遠距離から攻撃する。
だが、今ここにいるポケモンは途方もなく巨大だった。
その巨体が威圧感を放っている。
「くっ……うおおっ!!」
グレアでさえも圧倒されそうになる。それほどのプレッシャーだった。
高くジャンプして飛びかかり、右手の骨で攻撃に出る。
だが、パルキアがグレアの方を向いてきた!
大きな口から、水流を発する。
「うぐっ!」
グレアは正面から水流をぶつけられ、空中から落下した。
しかしそれと同時に、ロットがパルキアとの距離を詰めきった。
鋭い木の葉がパルキアを切りつける。
さらに、2本のビームが同時に命中する。
れいとうビームとラスターカノンだ。
「グガアアアアアッ!!」
パルキアが吼える。
今度は、全身に白い光が集まってくる。
そして、突風が吹いてきた!
「わあっ!」
白く輝く多数の氷が、強風とともに向かってきた。
空間全体の気温が下がっていく。
「寒いよー!!」
こおり技に弱いロットは、ふるえが止まらない。
グレアも動くことができないでいる。

グオオオオオオオォォォォォォッ!!!!

続けざまに真空波を放つ。かわすことはできなかった。
とっさにイオンがラスターカノンをぶつけ、威力を弱める。
ダメージを最小限にとどめた。
まだ戦える。
「ならば……これはどうだ!」
パルキアの周囲に、いくつもの球体が浮かび上がる。
「これは、めざめるパワー!?」
時限の塔で、ディアルガも使用した技だった。
「!!」
高速で飛来する球体は、イオンを大きく弾き飛ばす。
力を収束させたような衝撃が、球体から伝わってきた。
見た目は同じようでも、効果は違っていた。
「かくとうタイプだな」
球体を骨で跳ね返したグレアが、そう判断する。
真空の刃と、泥の塊を放つ。
しかし、パルキアはものともしない。
いずれの攻撃もさほどの効果を成していないようだ。
またしても、猛烈な吹雪が襲ってくる。
ルナが防御の技を発動し、他の3匹はその後ろに回った。
「ちっ、攻撃も守備もかなりのもんだぜ」
「一体どうしたら……イオン、何か思いつかない?」
荒く息をつきながら、グレアとロットがそう言った。
イオンは、パルキアに聞こえないように話す。
「作戦ヲ思イツイタ。ボクガ接近スレバ、防御ヲ崩セルカモシレナイ」
「よし、俺達が先陣を切る。後から近づいてみてくれ!」
言うが早いか、グレアが進み出る。その後ろにルナが続く。
パルキアの正面に。
それを見て、パルキアは空気中の水を集めて放出した。
「予想通り!」
グレアがジャンプして後ろに下がるのを確認し、
ルナもまた水流を撃ち出す。
パルキアの技を見て覚えることで、今までのものより威力が上がった。
みずのはどうが二筋、正面から衝突する。
大量の水が周囲に飛ぶ。
その時、パルキアがふと振り返る。
そこにはイオンがいた。
ちょうどパルキアの顔の側面にあたる場所に。
次の瞬間。
「グオオオオオォォォォォッ!!!」
パルキアが身もだえした。
至近距離にいるイオンが、金属のこすれ合うような音を出したのだ。
神と呼ばれるパルキアといえど、耳元でこんな音を出されてはたまらないようだ。
その時には、すでにロットが全ての距離を詰めていた。
「とうっ!」
上空から飛びかかり、さらに次々と攻撃を当てていく。
多数の花びらが飛ぶ。
目にも留まらぬ連続攻撃だった。
その全てが決まった時、花びらの中からロットが大きくジャンプし
仲間達の前に着地する。
パルキアはその場にくずおれた。
だがすぐに起き上がると、

ウガアアアアーーーーーーッ!!!

空の裂け目の外まで聞こえそうなほどの大声で、吼えた。
しかし、その時。

「……」
パルキアが、突然止まった。
石にでもなったかのように、全く動かない。
「な、なんだ……?」
「パルキアは、悪夢に包まれたのだ」
どこからか声がする。知らない声だった。
4匹は周囲を見回した。
謎の声は、再び語りかけてくる。
「お前達、パルキアの悪夢の中に入ってみるか?」
意外な問いだった。一行は考え込んだが、入ってみることにする。
そう告げると、周囲の空間が闇に溶けていった。

 悪夢の中には、パルキアがいた。
先ほどまでと変わらぬ、巨大ななりで。
しかし、なぜか威圧感が無い。
ポケモン達を圧倒するような強いプレッシャーが、全く感じられなかった。
パルキアは、一行が現れたことに驚いているようだ。
「お、お前らは!?なぜお前らがオレの夢の中に!?
 いや、そもそもどうしてオレは夢を見ているのだ!?」
謎の声から聞いたことを、ルナが言った。
パルキアは悪夢に包まれた――と。
それを聞いたパルキアの表情が固まっていく。
「オレが……悪夢に……」

グオオオオオオオォォォォォォッ!!!!

「ひえっ!」
突然の咆哮に、4匹は思わず飛び上がった。
さらにパルキアが大声を上げる。
「やはり、お前らを生かしておくわけにはいかんっ!!」
咆哮を上げながら、パルキアが迫りくる。
「このオレでさえもコントロールできぬほどの空間のゆがみを引き起こすお前には!
消えてもらう!世界のためにっ!!」
「うっ……」
ルナはひるんでしまった。
「や、やっぱり私が消えるしかないの……?」
「ルナ、あきらめないでよ!!」
後ろからロットが叫ぶ。
だが、パルキアはさらに迫る。ルナの目前に。
「全ては世界のためだ!許せっ!!」
パルキアの右腕の真珠に、光が満ちる。
だが――

「ここに……ここに、いたのですね」

またしても、謎の声が聞こえてきた。
だが、この声はルナとロットは知っている。
クレセリアが、またしても現れたのだ。
パルキアの後ろから。
「闇もとうとうここまで広がっているのですね」
パルキアが道を開け、クレセリアがルナのすぐ前に来る。
「早くあなたを始末しなくては、全てが手遅れになってしまう。
 ……心残りは無いですか?」
静かな、抑揚のない声。
ルナは何も言えなかった。
だが、後ろに下がっていたパルキアが話し始める。
「クレセリアよ、オレはさっきまで、怒りにまかせて暴れていたのだが……
 ただ、こうして見ていると、オレにはこいつが悪いヤツには見えないのだ。
 お前は夢の中で言ってたが、本当にこいつは……ルナは悪いヤツなのか?」
クレセリアが、パルキアに向き直った。
その三日月の体からは、邪悪なオーラが漂っている。
「見かけにだまされてはいけませんよ、パルキア。
 ここで始末すれば……世界は救われるのです」
だが、その言葉はルナ達に引っ掛かりを感じさせるに十分だった。
「おいおい、ちょっと待てよ?」
「パルキアはその話をクレセリアから聞いたってことは……」
「全テハオ前ガ言ッテイルダケニ過ギナイ!」
3匹のポケモン達が次々と疑問を呈するが、
クレセリアは無視するように向きを変えた。
再びルナを見据える。
「それでは、あなたを始末します!!」
三日月が、鎌のような輝きを放つ。
ルナは恐怖で目をつぶった。
「ルナ!希望を捨てちゃ……」

「そうです!希望を捨ててはダメっ!!」

ルナがおそるおそる目を開けると、
信じられない光景が広がっていた。
クレセリアが――2匹いる。
「な、なんだこいつはっ!?」
「くっ、もう少しでとどめが刺せたというものをっ!」
ルナを消そうとしていた方のクレセリアが、先ほどまでとは違う口調で吐き捨てた。
もう1匹のクレセリアが、後ろにいるルナ達に言う。
「よく聞いて!あなた達は、今までだまされてきたのです!
 そこにいるダークライによって!」
「なっ!?」
ルナ達のみならず、パルキアも驚きを隠せなかった。
「あなた達が今まで見てきたクレセリア……あれは私ではありません。
 あのクレセリアは、全てそこにいるダークライが作り出した幻影……私の偽物です!」
瞬間、クレセリアの片方の姿が薄らぐ。
そして……見たことのないポケモンになった。
影のごとく黒い風体から、さらに強く邪悪なオーラを発している。
「ずいぶんと珍しいことをするわね、ダークライ。
 いつも後ろで暗躍しているあなたが、自分からとどめを刺しにくるなんてね!」
クレセリアの言葉にも、ダークライは表情ひとつ変えない。
そして、静かに語り出した。
「ふっ、こうなっては仕方がない。よく聞け。
 空間のゆがみを利用し、世界を悪夢に包みこもうとしているのは……この私だ」
一行は、今さら驚きはしない。
「私の企みを止めたくば、闇の火口まで来い」
その言葉が聞こえてきた時には、ダークライはもうその場にいなかった。

 一行は、パルキアの空間転移により空の裂け目から脱出した――




物語も大詰めのMission23。
空の裂け目での話を書きました。
バトルシーンが非常に多かったような気が。

今さらここで語ることも少ないですが、1つ挙げるとすれば……
パルキアが必殺技を出す時の咆哮はディアルガと少し違います。
ディアルガは伸ばし棒があり、パルキアは無い。という違いが。

さて。
次回の更新で、この小説は本当に終わりです。
最近になって執筆ペースが落ちていて危険ですが、
ここまで来たからには、隔週更新を貫いたまま終わりたい。

最終回を、お楽しみに。

2008.11.25 wrote
2008.11.28 updated



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